5人のテストの点数、10点満点で2組あります。1組目は2、3、3、3、4。2組目は1、1、2、3、8。合計はどちらも15、平均もどちらも3.0で一致します。この2つ、平均が同じなら、だいたい同じデータと考えていいのでしょうか。
答えは、ヒストグラムに描くとまったく違う形になる、というところにあります。平均という計算は、5人分の点数という1枚の絵を受け取って、3.0という1つの数字に畳んでしまいます。その畳む作業のときに、何かが必ず落ちる。この記事では、分布を1つの数字に畳むときに何を残し、何を捨てているのかを、3つの問いから解き明かします。
※以下は自分の言葉で再構成した勉強ノートです。図はすべて自作の再構成です。
1. 「真ん中」という言葉の中に、三人いる
平均・中央値・最頻値は、結局みんな「真ん中」で、計算のやり方が違うだけ——そう思われがちですが、それは半分正しくて半分違います。
「真ん中」という言葉の中には、測り方の違う3人が住んでいます。1人目は、シーソーがつり合う支点——これが平均。2人目は、行列に並んだときのちょうど真ん中の人——これが中央値。3人目は、いちばん人だかりができている場所——これが最頻値。
先ほどの1組目(2、3、3、3、4)でこの3人を確かめると、平均は3.0、小さい順に並べた3番目(中央値)も3、最も多く出ている数字(最頻値)も3。3人とも同じ場所に立っています。これが、普段この3つの違いに気づかない理由です。左右対称にきれいに並んだ分布では、支点も、行列の真ん中も、人だかりの場所も、たまたま重なります。
3人にはもう1つ、決定的な違いがあります。平均が計算できるのは、点数のような量的なデータだけです。一方、最頻値は「好きな色」のような質的なデータでも出せます。数字ですらない場所でも、人だかりの場所は測れるからです。中央値はちょうどその中間で、数字でなくても、順番さえ付けられれば出せます。3人が並んでいるのは、性質が違うだけでなく、そもそも使える場面が違うからでもあるのです。
「真ん中を計算する」というのは、実は「どの測り方の真ん中か」を選ぶ行為です。そして選んだ時点で、選ばなかった測り方が見ていたものは、その数字から落ちます。
2. 支点は動くが、行列の真ん中は動かない
3人が重ならなくなるとどうなるでしょうか。1、2、3、4、5という5人がいます。平均も、真ん中に並んだ3番目(中央値)も、どちらも3で一致しています。
ここで、いちばん右の5だけを25に変えてみます。1、2、3、4、25。平均は、合計35を5人で割って7。3から7に、2倍以上に跳ね上がりました。では中央値は——並べ直しても真ん中の3番目はやはり3のまま。ぴくりとも動きません。
理由は、2つの測り方が見ているものの違いにあります。平均は、各点との距離をそのまま足しこみます。シーソーで言えば、遠くに座った1人がいれば、その分だけ支点は引っ張られます。一方、中央値は順位しか見ていません。いちばん右にいる人が、どれだけ遠くまで行こうと、「いちばん右」という順位そのものは変わらないのです。
このズレは、単に「平均は動きやすい」で終わる話ではありません。先ほどの2組目(1、1、2、3、8)で確かめると、平均3、中央値2、最頻値1と、きれいに離れます。右に長い裾を引く分布では、典型的には、最頻値・中央値・平均の順に並びます。8という遠くの1点が、平均だけを右に引っ張るからです(ただしこれは、すべての分布で必ず成り立つ定理ではなく、山が1つのなだらかな分布で成り立ちやすい経験則です)。
3. 引いて、二乗して、足す。この遠回りの理由
散らばりを測るには、平均からの距離を全部足せばいいのではないか——そう思って実際にやってみると、壁にぶつかります。気温3日分、10℃・20℃・30℃(平均20℃)の、平均からの差(偏差)はマイナス10・0・プラス10。これをそのまま足すと0になります。
これは偶然ではありません。平均は「差し引きゼロになる点」として決まる数なので、シーソーで言えば支点はつり合う場所にあります。つり合っているということは、左右の距離の合計が、差し引きでちょうど0になっているということです。偏差の和が0というのは、その言い換えにすぎません。だから、符号を消す必要があります。
候補は2つあります。絶対値を取るか、2乗するか。絶対値を使う指標(平均絶対偏差)も実在します。2乗が唯一の方法ではなく、選択だということです。それでも統計の世界でほとんどの場面で2乗が使われる理由は2つ。1つ目は、遠い点ほど重く効くこと——距離が2倍になれば、2乗すると効きが4倍になります。2つ目は、2乗は足し算がうまくいく性質を持つこと——ばらばらの量を足したとき、そのばらつきも2乗で測っておくと素直に足し算できます。絶対値だと、これは成り立ちません。
偏差を2乗して足すと200。これを、データの個数3ではなく2で割ります(偏差は「和が0になる」という縛りが1本かかっているため、自由に動けるのは実質2つだけ——これを自由度2と言います)。分散は100。単位が℃の2乗になってしまうので、平方根を取って元の単位に戻すと、標準偏差は10℃です。引いて、2乗して、足して、割って、また平方根——遠回りに見えて、1つ1つの段に理由がある計算でした。
4. 散らばりには、測り方が二系統ある
四分位範囲は、標準偏差と結局同じことを別の式でやっているだけではないか、と思われがちですが、これも系統が違います。
標準偏差は、値そのものの目盛りで測ります。2乗して平均して平方根、という系統です。一方、四分位範囲は、順位の目盛りで測ります。行列に並べて4等分し、真ん中の50%がどれだけの幅に収まっているかを見る指標です。四分位数は、中央値と同じ「行列を切る」仲間なのです。
値の目盛りで測るか、順位の目盛りで測るかで、極端な1点への強さが変わります。2乗系は実際の値の大きさに比例して効くので、極端な1点があると跳ね上がります。一方、順位系は「行列の何番目か」しか見ないので、その1点がどれだけ極端でも、順位が変わらなければ影響しません。これは、平均と中央値の違いと、まったく同じ構造です。
実際、この2系統にはもっと強い繋がりがあります。あるデータから1点を引いて2乗し、全部足した合計がいちばん小さくなるのは、引く数を平均にしたときです。同じデータで、引いて絶対値を取って全部足した合計がいちばん小さくなるのは、引く数を中央値にしたときです(先ほどの2組目のデータで実際に計算すると、絶対値の合計は中央値を引いたときに9で最小、2乗の合計は平均を引いたときに34で最小になり、この関係が確かめられます)。どの物差しで測るかを決めると、いちばん真ん中らしい点も自動的に決まる——「平均と標準偏差」「中央値と四分位範囲」がセットで使われるのは、単なる慣習ではなく、同じ測り方の、中心と散らばりのペアだからなのです。
5. 箱ひげ図が、静かに捨てているもの
箱ひげ図の、箱の横幅とひげの長さは、どちらも散らばりの大きさを表しているように見えますが、答えている問いが違います。
箱の幅は四分位範囲そのもの——行列の真ん中50%がどれだけ詰まっているかという、密度の話です。一方、ひげの端は、データがどこまで届いているかという、端の話です。中心にぎゅっと密集していて外れ値がぽつぽつある分布と、全体にわりと均等に散らばっている分布では、ひげの端から端まで(範囲)は同じにできても、箱の幅はまるで違うということが起こりえます。
箱ひげ図は、最小値・第1四分位数・中央値・第3四分位数・最大値という、5つの順位の点だけを使っています。この5点の位置さえ一致すれば、山が1つなのか2つに割れているのか(密度の形)は、まったく反映されません。順位という座標系を選んだ時点で、山の数は最初から見えない設計になっているのです。だからこそ、試験がヒストグラムと箱ひげ図を並べて出してくるのは自然なことです。箱ひげ図だけでは捨てられてしまった情報を補うには、別の座標系の図と突き合わせるしかないからです。
逆に言えば、箱ひげ図が得意なのは、山の形を気にしなくていい場面——いくつかのグループの真ん中と広がりだけを、ぱっと並べて見比べたいときです。5つの点しか使っていないからこそ、何本並べても潰れずに読めます。捨てたぶんだけ、並べる力を手に入れている、とも言えます。
6. 単位を変えても動かない数字と、動く数字
標準化した値(z得点)は、なぜ単位を変えても動かないのでしょうか。摂氏10℃・20℃・30℃(平均20℃、標準偏差10℃)で、30℃のz得点は(30−20)÷10で1です。同じ3日分を華氏に変換すると50℉・68℉・86℉(平均68、標準偏差18)になり、86℉のz得点は(86−68)÷18でやはり1になります。摂氏でも華氏でも、同じ数字になるのです。
z得点は、(値−平均)÷標準偏差という式です。これは、原点を平均の位置に置き直して、定規の1目盛りを標準偏差の大きさにする、自分専用の座標を作る作業です。単位を変えるという操作は、突き詰めると「原点をどこに置くか」と「目盛り1つをどれだけの大きさにするか」を、外から付け替える操作です。偏差を計算する時点で両方から平均を引き算しているので、原点のズレ(下駄)はきれいに消えます。残るのは目盛りの拡大だけで、これも最後に標準偏差で割るときに約分されて消えます。下駄は引き算で消え、倍率は割り算で消える——だからz得点は、外から原点や目盛りを付け替えられても、まったく動かないのです。
同じ「割って単位を消す」という手筋を使うもう1つの道具に、変動係数(標準偏差÷平均)があります。ただし使いどころが違います。z得点は1つの点を分布全体の中に位置づける道具、変動係数は2つの分布全体の相対的なばらつきを比べる道具です。センチをメートルに直すような、原点が動かない変換(0センチと0メートルは同じ点)では、変動係数は一致します。ところが摂氏を華氏に直すような、原点そのものが動く変換(+32という下駄が乗る)では、平均だけが余分にずれて、変動係数は一致しなくなります。
z得点は原点と目盛りの両方を自分専用に作り直す道具、変動係数は目盛りだけを作り直して原点は外の世界に残したままの道具——だから変動係数は、「0という値そのものに意味がある量」(長さや金額など)でしか正しく使えません。0℃は「氷が張る温度」というだけの、便宜的な原点にすぎないからです。
冒頭の3つの問い——「真ん中」がなぜ3つもあるのか、散らばりを測るのになぜあんな遠回りをするのか、標準化した値がなぜ単位を変えても動かないのか——は、聞いているときはバラバラに見えても、実は同じ1つの設計を、違う場所で繰り返し見ていました。支点の位置が平均、支点からの距離を2乗して平均したものが分散、支点を0の位置に置き直して定規の目盛りを標準偏差にしたものが標準化、そして定規の目盛りだけを作り直したものが変動係数です。
中心を選ぶことは、分布の位置だけ残して形を捨てる作業でした。散らばりを測ることは、幅だけ残して形を捨てる作業でした。箱ひげ図は、それを順位の地図に描き直して、山の数まで捨てていました。真ん中を選ぶことも、散らばりを測ることも、単位を消すことも——すべて「分布という絵から、何を残して何を捨てるか」を選ぶ、同じ1つの設計だったのです。
